遠きどこかの"ONLINE DREAMS"-I can still see the light-
チャオとは一切関係のないお話です。
これは私のPSOの物語。
PSO。
このタイトルを聞いたことのあるチャオラーは多いかと思います。
なのでチャオBでも度々話題に出ていたはずです。
しかしこのPSOはテイルスチャオをゲットするゲームではありません。
ソニアドシリーズがそうであったようにこのゲームもドリームキャストからの移植作品でした。
PSOでは4段階の難易度が設定されています。
ノーマル、ハード、ベリーハード、アルティメット。
オンラインモードでは一定のレベルに到達すると、上の難易度に挑戦できるようになります。
最高難度のアルティメットには、Lv80から挑戦が可能。
だけど単にLv80になっただけのキャラクターでは、この難度のエネミーに太刀打ちできません。
このゲームの最大レベルは200です。
Lv80なんて、まだまだひよっこです。
そしてアルティメットのエネミーは、それまでの難易度とは比べ物にならないくらいパワーアップしています。
しかも強力な装備品は、アルティメットでないと手に入らないのです。
だから上等な装備品を譲ってもらわないと、Lv80ではアルティメットで太刀打ちできません。
そして仮にいい装備品があったとしてもソロプレイは厳しい。
アルティメットはそんな難易度だったのです。
アルティメットはそんな難易度だったのです。
私がオンラインデビューした時、幸か不幸か、私はまだアルティメットに挑戦できるレベルではありませんでした。
たぶんLv30台くらいだったんじゃないかと思います。
Lv30だとまだベリーハードにも行けません。
Lv30だとまだベリーハードにも行けません。
ですが毎日のようにオンラインにこもり、アルティメットに行けるレベルまで到達しました。
そしてある日、よく一緒に遊んでいた人から、
「ver1.1に移行する」
と宣言を受けました。
ver1.1。
それは、致命的な不具合を修正した、修正版のことを指します。
不具合というのは、アイテムをコピーできてしまう、というものです。
オンラインゲームにとってアイテム増殖バグは洒落になりません。
特にPSOは簡単にアイテムの交換ができるシステムでした。
レアアイテムだから交換できません、みたいな今ならよくあるシステムも、当時は存在していなかったのです。
だから修正版のディスクと交換する必要がありました。
そして修正版では、不具合の修正だけでなく、ゲーム内容の改良も多く行われました。
ただ一つ、修正版に移行するにあたり、問題がありました。
アイテムの引継ぎができない、という問題です。
これはアイテムの増殖に対応するために必要な措置でした。
しかし装備品を引き継げないのは、先に紹介したアルティメットの厳しさを考えれば、大きな痛手だとわかると思います。
それにオンラインゲームのレアアイテムは総じてドロップ率が低く、物によっては全くと言っていいほどドロップしないものもあります。
そんな激レアアイテムをゲットした人はより移行しづらかったでしょう。
私は、特にレアアイテムを持っていたわけじゃありません。
でもアイテム増殖バグなんて、自分には関係ないと思っていました。
知り合い以外からアイテムをもらわないよう努めれば、少なくとも自分は清い身分でいられたからです。
移行せずに残っていた人は、多かれ少なかれそういう思いを持っていたのだと思います。
そんな人たちが、それでも移行する理由はありました。
「知り合いが移行したから移行する」です。
知り合いがver1.1に移行したことを受け、私もver1.1に移行しました。
そして私は、それまで入手した装備品全てを失いました。
装備品を失っても、仲間は失いませんでした。
引継ぎができないのはアイテムだけ。
今でいうフレンド登録をしているプレイヤーのデータは残っていました。
なのでver1.1移行初日、私はその時オンラインになっていた1人と共に冒険に出かけました。
PSOは最大4人で冒険に出られます。
私と友人と、そして飛び入り参加してくれた初対面の仲間2人。
この4人でアルティメットモードに挑みました。
と言っても、移行したてで弱いのは私1人だけ。
そしてステージも一番簡単なステージでした。
残りの3人が、さくさくとエネミーを倒していってくれました。
装備品を失ったばかりの私にとって、彼らはとても頼もしかったです。
そして段々とボスの待つエリアが近付いていった時、レアアイテムがドロップしました。
レアアイテムは、武器でした。
ドロップしたばかりの武器は【スペシャルウェポン】と表示され、正体がわかりません。
だけど物知りな人や攻略本を持っている人は、どのエネミーからドロップしたか調べることで、その正体を突き止められました。
アルティメットのグルグス・グー。
そして部屋主のIDは、ブルーフル。
(PSOではキャラ作成時に、10種類のIDの中から1つが割り当てられます。
IDによってドロップするアイテムが変わり、特定のIDでしか入手できないレアアイテムも存在しました)
「うわ、インペリアルピックだ!」
「えー!? つるはしー!?」
たぶんそんな感じの騒ぎになったと思います。
つるはしをモチーフにした武器、インペリアルピック。
愛称はそのモチーフまんまに、つるはし。
これはなかなか珍しい部類のレアアイテムでした。
なんとこれは、ブルーフルのIDでしか手に入らない武器だったのです。
「ver1.1に移行したばかりだと、レアアイテムが出る」
そんな都市伝説が当時ささやかれていました。
実際にそのとおりになったのです。
しかもインペリアルピックは、私の使っているキャラで装備可能な武器でした。
「うおおおおっ!!」
当然私は興奮しました。
そして、思いました。
「絶対にじゃんけんに勝たなくては!!」
そう、じゃんけんに勝たなくちゃいけなかったのです。
PSOでレアアイテムがドロップした時には、じゃんけんをするのが恒例でした。
実はこのゲーム、共有ドロップなのです。
ドロップしたインペリアルピックは、みんなの画面に表示されています。
そして拾えるのは1人だけ。
PSO2のような全員がそれぞれ別にアイテムを手に入れる方式でもなく、
ドロップしたレアアイテムが抽選で誰かに渡るシステムでもなく、
単純に「早い者勝ち」な状態でした。
でも本当に早い者勝ちをやるとトラブルになるので、
じゃんけんで手に入れる人を決めることが慣習になっていました。
しかし、私と一緒に冒険をしていた3人は、言いました。
「移行記念にスマッシュさんどうぞ!」
私は、すごくすごく、嬉しかったです。
移行したばっかりだから、多少のレアならわがままは通用すると、思っていました。
だけどインペリアルピックは、そんなわがままでむしり取ってはいけないと感じるぐらいには、珍しい武器でした。
そんなレアアイテムを譲ると言うのです。
優しい言い出しっぺと、そして少しも文句を言わない優しい2人のおかげで、私は移行直後、それまで手にしたことのないレアアイテムをゲットしたのでした。
PSOのことで印象に強く残っているエピソードは、もう1つあります。
それはインペリアルピックの出来事よりもずっと後のお話です。
あの後、私は他にもたくさんレアな装備を手に入れていました。
その中にはインペリアルピックよりも強力な武器もありました。
アルティメットモードの過酷な戦いを生き抜くために、私はインペリアルピックから新しい武器に持ち替えていました。
そのくらい、時間が経った時に起きたことです。
その時も私は、私+友人+飛び入りの初対面の仲間2人で遊んでいました。
でも飛び入りで加わってくれた仲間の1人、Aさんは、アルティメットの壁にぶち当たっている人でした。
エネミーに攻撃しても、1しかダメージが入りません。
明らかにレベルや装備が不足していました。
いけると思って挑戦してみたものの、全然戦えないというのは、アルティメットに行けるようになって日の浅い人によくあることです。
最初のステージをクリアできても、別のステージでは歯が立たないなんてこともあります。
Aさんもそんな感じで、苦戦していました。
すると突然、もう1人の飛び入り参加の人がいなくなってしまいました。
立て続けに友人も姿を消しました。
あっという間に私とAさんの2人だけになってしまいました。
2人だけになってしまって困った私たちはその場に立ち尽くしました。
「回線落ちですかね~?」
とAさんは言いました。
「そうみたいですね~」
と私は相槌を打ちました。
でも、そうじゃないってことはわかっていました。
オンラインゲームでは、非情なことも起こります。
1しかダメージが入らない仲間を見て、役に立たないと判断したのです。
そして回線落ちと見せかけてログアウトしたのです。
もっと戦力になる仲間を探して、仕切り直した方が早く安全にクリアできるから。
友人からはメールが届いていました。
「お前も早く抜けちゃいな」
という内容のメールでした。
だけど私は、そんなこと絶対にするもんか、と思いました。
効率が大事なこと、この記事を書いている今はよく理解できます。
レベルを上げたい。
レアアイテムが欲しい。
それらの望みを叶えるためには、効率的に冒険をしなくちゃいけないのです。
オンラインゲームは厳しい世界です。
最大レベルまで上げるにはとんでもない量の経験値が必要ですし、レアアイテムのドロップ率はかなり低く設定されています。
そんな世界でレベルやレアアイテムを求めるのなら、効率的にならなきゃいけないのです。
でも私は、そんな冒険ができませんでした。
力不足の仲間がいても、残りの3人でフォローすればいいと思っていました。
苦しい戦いになったってみんなで協力して突破すればいいと思っていました。
そんな戦いもまた楽しいと思っていました。
そしてどうにかクリアできた時、4人みんなで喜び合いたいと思っていました。
私にとって、PSOとはそういうゲームでした。
だから目の前の仲間を見捨てて、効率を追い求めることができませんでした。
取り残されたAさんは、
「私はこんなですし、2人だけじゃ無理だから、やめましょう」
と言いました。
だけど私はムキになって色々説得して、少しだけ冒険を続けました。
本当に、少しだけでした。
明らかなジリ貧で、クリアするまでにどれほどの時間と回復アイテムを費やすことになるのか、見当もつかなかったからです。
すぐにAさんがやっぱりやめましょうと言い、私はそれに従いました。
Aさんは、ありがとう、と言ってくれました。
「優しいですね」
とも褒められて、私は嬉しくなりました。
「いい教師に恵まれたんです」
とちょっと意味不明な謙遜を私はしました。
でも本心でもありました。
そのいい教師というのが、学校の先生なのか、PSOで出会った優しい年上の人たちなのかは、今となっては覚えていません。
でも少なくとも、あの時の僕は、素敵な人たちに囲まれて生きている、と感じていました。
そんな素敵な人たちへの感謝の想いもあって、そんな言葉が出たんだと思います。
ただ、その後Aさんと再会することはありませんでした。
フレンド登録するのを忘れてしまったからです。
あの時のことは、今でも心残りです。
3人でAさんをフォローできたらよかったのに、と思います。
それからも一緒に遊んで、そしてアルティメットで普通に戦えるようになったAさんともっと難しいステージに挑戦できたら、きっと素敵だったんだろうなって思います。
そしてAさんから言われた「優しい」という言葉が今も私に深く突き刺さっています。
私は自分のことを優しい人間だとはあまり思っていません。
自分に対する信用が薄いんです。
だから、よく自分を疑うんです。
今も私は優しい人間だろうか?
あの時よりも優しい人間になれているだろうか?
そんなふうに自問自答を繰り返しながら。
今、私はオンラインゲームを全然していません。
アイテムやレベルのために冒険する気力が出ないのです。
レベルはなかなか上がらず、レアアイテムは全然手に入らない。
徒労感ばかりで、全然楽しくありません。
私はオンラインゲームが楽しめなくなってしまった。
そう感じました。
でも、そうじゃなかったんだなって、最近気が付きました。
かつて私がオンラインゲームをやっていた頃。
少しもためらわず、レアアイテムを私にくれた人たちがいました。
それがとても嬉しかった。
そういう出来事があるのが、そういう人たちと出会えるのが、楽しかった。
今度は私が、誰かに優しくしたい。
きっと今度オンラインゲームをする時が来たら、その時は。
私が誰かにオンラインゲームの夢を見せてあげよう。
それこそがきっと私の求めているオンラインゲームなのだから。
それこそがきっと私の求めているオンラインゲームなのだから。